T・ヒューズ(市場泰男訳)『電力の歴史』(平凡社、1996年)
序章
本書の目的
- 今日の技術的状況は、技術に関わる事柄、科学法則、経済原理、政治権力、社会の関心事などが絡んで複雑な構造になっている。
←科学者・技術者は、システム自体を分析するが、歴史家は、システム同士の複雑な多面的関係と、それらの時間経過による変化を理解する必要がある。
=複雑さと変化の研究
- 本書の目的:1880s-1930sの間に、(ベルリン、シカゴ、ロンドンの)電力システムの配置に起こった変化を説明すること。
→そのためには、技術、科学、政治、経済、組織的諸活動を考慮に入れなければならない。
∵電力システム=文化的人工物(cultural artifacts)
;それを建設した社会がもつ物質的、知的、象徴的資源を具体化したもの。
=社会的変化の原因でもあり、その結果でもあるもの。
※電力システムの歴史記述は、状況の中で作用している外部因子のみならず、技術的システムの内的力学にも注意する必要がある。
→本書は、技術と社会の歴史である。
システムとは?
- システム:互いに関連を持つ部分・要素から構成され、その要素はネットワーク・構造によって結び付けられている。
- システムの構成要素は、システムの性能を最大限に発揮させ、システムの目標の達成に向けて導いていくために、集中制御されることが多い。
(ex 電力システムであれば、システムの目標=手に入るエネルギー入力を、望みの出力へと変換すること。)
- システムの限界は、この制御が及ぶ範囲によって確定される。
- システムの構成要素は互いに関連づけられているので、一つの要素の状態はシステム内の他の要素の状態に影響を及ぼす。=相互関連性がある。
- ネットワークは、システムに独自の配置をもたらす。(ex 垂直配列/水平配列)
- 小さいシステムが大きいシステムの制御に従うというヒエラルキー的配置をとることがある。
- システムの制御には従わないが、システムの影響を及ぼす世界の部分=環境
環境から影響を受けるシステム=open system⇔受けないシステム=closed system
※後者の場合、初期条件と内的なダイナミクスによって最終状態を予測できる。
- 本書の「システム」は、大抵は送電システムをさすが、ときにはルーズに使うこともある。
- 電力システムは、①電力発生、②変換、③制御、④利用、⑤送電・配線網から成る。
- 電力システムの研究を企てた理由:
電力システムに限らず、大規模な科学技術の歴史は、システムの歴史として効果的に研究することができるから。
システムの進化のモデルの5段階と、成長を主宰する人々
- ③システムの成長:逆突出部(reverse salient)と、決定的問題(critical problem)を含む。
逆突出部:ネットワークの全体の成長に歪みを生じさせている、アンバランスな領域。→逆突出部を決定的問題として規定することで、(そのシステムに十分な需要があれば、) システムの成長がもたらされる。
技術者は解決可能な問題を規定する能力を持っており、問題が規定されると彼らの自身は劇的に高まる。
∵一つの問題を明確に言い表したものは、それの解答をも包含していることが多いから。
- Ex 直流には経済的に送電できないという逆突出部を持っていたが、1880sに技術者はその解決を見つけることはできなかった。結果、新しいシステム(AC)が優勢になっていった。
→〔逆突出部と決定的問題は〕古いシステムをとりまく状況の中で決定的問題を解決できなかったとき、そこから時として新しいシステムが出現することも説明する。
- ④運動量(momentum):システムの質量、速度、方向。電気事業体(utility)と政治機関との間の緊張と一時的妥協が見られる。また、外的な力(ex : WW1)が大きな運動量を持つシステムの方向を変えることがある。