yokoken002's note

Reserch review on the history of technology and science

レスリー、1993年、序章。

スチュアート・レスリー『米国の科学と軍産学複合体』

 

序章

  • 冷戦は、米国の科学を定義し直した。

←1950sを通じて、国防総省(DOD)は、連邦政府の研究開発予算の8割を占めていた。(冷戦期全体を通じて、電子・航空技術では、産業界全体の研究開発費の3/4近くがDODからの出資であった。)

=冷戦下での政治経済においては、科学は純粋なアカデミックなものであるというよりは、軍によって下書きされた国家の工業政策に適合する青写真に沿ったものでなければならなかった。

  • ウィリアム・フルブライト:「軍産学複合体 (military-industrial-academic complex)」

→大学:

  • 知識を創造・再現する(=基礎研究を提供する)場
  • 次世代の科学者・技術者を訓練する(=防衛産業の人材を供給する)場

→学セクターは、軍産複合体にとっての不可欠なパートナー。

  • 軍産学複合体は、戦後の科学の新しい形態(=安全保障国家の状況の依存する性格の科学)を作り出した。

→研究・製品は、先端の軍事技術に偏り、民間経済に資することは少なくなる。

  • アイゼンアワー大統領の離任演説→「軍産複合体」:政治的・知的自由にとっての脅威であると警告した。

 

  • WW1ランドルフ・ボーンは、WW1は、アメリカの政治経済・科学にとって見えない分岐点であったと主張。

:戦争産業委員会(WIB)のもとで平時における大規模な工業資源に関する計画立案がなされ、のちの軍産複合体となるきっかけが作られた。→軍需生産委員会へとつながる。

:さらに、全米研究評議会(NRC)のもとで、ミリカンをはじめとする一流の科学者が「戦争は研究を意味する」との信念のもと、動員された。

⇔しかし、NRCは科学者を動員したが、科学そのものは(少なくとも大学における科学は)動員しなかった。動員された科学者は自身の組織の代表として参加していたのではなかった。アメリカの大学は軍事科学それ自体の推進にはほとんど関与していなかった。

→軍産学の連携もWW1後に解消された。

  • 国家の支援を失った(あるいは政治的地位を失った)大学の研究者は、代わりに地域的なビジネス業界や慈善基金に協力を求めるようになる。(ex ミリカンのカルテク)

戦間期においては軍は(航空学を除いて)大学における科学の政治経済にはほとんど関与しておらず、この間の大学の研究資金はロックフェラーをはじめとする民間ファンドによって、もしくは企業内研究所によって賄われていた。

☜WW1前にいかなる経験によって、軍産学の相互関係を一変させるようなスケールで、学セクターを全面的に再配置するということはなかった。

 

  • WW2:WW2は動員の規模、資金が使われる場所・方法において、学セクターを変容させるpoint of no returnとなった。

ヴァネバー・ブッシュ:戦時中の科学製作の立案者で、大学の研究の支持者。

→1940年にNDRC(民間の力を使って官僚主義を迂回して公立・私立の研究教育機関契約させることを目的とする委員会)の委員長になるよう大統領に説得。

→さらに強力な権限を持ったOSRD(科学研究開発局)の責任者に就任。

OSRD:戦時中に4億5000万ドルを兵器開発に使い、戦時の技術発展に重要な役割を果たした。

  • 軍は、戦時中の共同研究のやりかたを継続することを希望した。(ex: ONR)

→1950年までに、国防目的の研究開発支出は戦時中のレベルまで戻った。

 

  • 朝鮮戦争アメリカの科学動員を完成させ、史上初めて大学は軍産学複合体の全面的なパートナーとなったDODの研究開発費は2倍に。大学の管理運営のもとに新設の研究所ができる。(ex リンカーン研究所=MIT、応用エレクトロニクス研究所=スタンフォード)
  • 軍の支配力の増加は、大学・産業の科学研究に対して研究内容の優先順位に半永久的な決定権を及ぼすことになり、将来のアメリカの科学の方向性を決めることになった。

 

  • 軍事研究はアメリカの高等教育に及ぼした長期的なコストは、
  • 金銭
  • センス(良識)〔知識や認識のあり方〕 

の2つの面から測られなければならない。

イアン・ハッキング:「兵器だけが資金を受け取るのではなく、思考と技術の世界もそれを受け取る」

我々の関心を科学的知識の特定の〔安全保障に資する科学に限定された〕形態に限定することによって、知の世界にも多くの危険をもたらす

=冷戦における軍の要求に基づく技術が、米国の戦後の科学者・技術者にとっての重要課題を定義した。(ex : レーダー、弾道ミサイルマイクロ波エレクトロニクスなど)

  • 新しい知と技術の世界を理解するためには、軍の関心・意図が、大学の専門分野の構造、研究の優先順位、学部・大学院の教育、教科書にどのように定着したかを分析する必要がある。
  • ドナルド・マッケンジー:核ミサイルの発展を例に、「”テクニカルな問題“は決して明確ではなく、政治から切り離された単純な事実の世界ではない」ことを議論。→政治がハードウェアにいかに組み込まれるか?
  • 構築物(artifact)の背後にある知識も、同様に支配的な政治文化を全面的に体現している。社会の要請が、いかにして「学問的言説の内部構造にまで入り込むか?」また、そうした知識は、社会構造が消えた後も持続することになる。

 

∵両大学は、DODの関連団体から財政的にも、知的にも多くの利益を得た。

(Ex:MITは戦後に国内最大の防衛関連の研究契約機関となり、スタンフォード大は1967年までに契約リストの3位になり、電子工学・航空学では国内トップ〔おそらく研究レベルでトップという意味〕。)

=戦後の科学・工学の最も戦略的な分野(電子工学、航空工学など)において、両大学が先導していた。