yokoken002's note

Reserch review on the history of technology and science

Thomas P. Hughes, “The Evolution of Large Technological Systems" (2012)

Thomas P. Hughes, “The Evolution of Large Technological Systems, ” (Bijker, Hughes, Pinch ed., The Social Construction of Technological Systems- New Direction in the Sociology and History of Technology, (MIT Press, 2012))

  1. Definition of Technological Systems (技術システムの定義)
  • 技術システムは厄介で複雑で、問題解決型の構成要素を持っている。それらは社会によって構築されると同時に、社会を形成する。
  • 技術システムは、人工物(発動機、送電線、トランスなど)と、組織(電力会社、銀行など)が含まれ、他に「科学的」とみなされる要素(教科書、論文、教育制度)も含まれる。法的な要素も含まれる[1]
  • ある構成要素が取り除かれたりその性質が変化したりすると、システム内の他の人工物もそれに応じて特性を変化させる。(ex モーターの負荷が変われば、送電、配電などの要素も変わる。) (ex 電力の人工物がDCからACに変わると同時に学校教育のプログラムのAC中心にものに変化したなら、両者の間にはシステムの関係がある。)
  • システム構築者は、人工物のみならず、組織(形態)も発明・開発する。システム構築者の特徴は、混沌から一貫性を強制し、多元性に直面したときにそれを中央化し、多様性から統一性を構築する能力である。
  • 組織は人工物を選び、人工物が組織を選ぶ。とすれば、従来、「社会的」とラベリングされてきた「組織的」な構成要素はシステム構築者の創造=人工物で(も)あるから、社会的要素を「環境」や「文脈」として規定する習慣は避けるべきである。
  • システム制御者にとって、理想的なシステムとは「閉じたシステム」=外部の環境を持たないシステムである。この場合、官僚主義、ルーティーンに依存し、不確実性を自由を排除できる。また、高度な予測も可能である。
  • 技術システムに関係する環境:
    • システムが依存する環境
    • システムに依存する環境

どちらも一方向の影響力しかもたない。∵環境はシステムの管理が行き届かない外部であり、相互作用しないから。

 

  • システムはいかなる手段を使ってでも問題を解き、目標を達成する。そしてその問題は、少なくとも技術システムの設計者・行使者にとって、有用で望ましい仕方で物理的世界を再度秩序づけることに関係している。
  • システムは人工物・管理者によって行使される管理の限界によって束縛される。Ex 電力・電灯システムの場合、電力供給センター(通信と管理の人工物とスタッフを伴う)がシステム管理の中心である。同時にそれは、他の電気事業体や銀行、製造業者、株式会社の管理の下に置かれている。
  • 近代システムの建設者は、労働者の自発的な役割やシステムの行政職員の役割を最小化すべく、官僚化し、熟練労働者を不要にし、ルーティーン化する傾向にある。Ex テイラー主義

←技術システムの人間の役割=システムのパフォーマンスとシステムの目標との間のフィードバックループを完成させ、システムのパフォーマンスのエラーを修正すること。

  • システムを記述・定義する者は、システムがもつ階層構造に注意し、関心のある分析レベル=サブシステムに区切る必要がある。

Ex 人工物だけのシステムに区切ることもできるし、人工物と組織のシステムに区切ることもできる。

←分析レベルのシステムは、同時にサブシステムでもあることを念頭に置くべき〔≒システムの入れ子構造

  • システムの定義や記述に際してのレベルの選択は、政治的である可能性がある。

Ex 電力・電灯システムを分析する際に、外部の社会コストは無視される。

  • システムは入力と出力を持っている。(ex 発電システム:運動エネルギー→電気エネルギー)

 

  1. Pattern of Evolution (進化のパターン)
  • 大規模近代技術システムが、緩やかに定義されたパターンに沿って進化するように見える。「ほとんど」とか「主たる」と言えるほどサンプル数があるわけではないが、電灯・電力システムの進化は、以下のようなパターン(=モデルよりも緩い概念)を示しているように思われる。

段階

主催者

活動

発明

発明家=企業家

「決定的問題」を解く

開発

技術革新(イノベーション)

経営者=企業家

意思決定を行う

技術移転

発明家=企業家
経営者=企業家

新しい状況に適応する

成長

経営者=企業家

意志決定を行う

競争

統合

財政企業家、
コンサルティング技術者

決定的問題(?)を解く

 

  • システムが成長するにつれて、スタイルと運動量を獲得する。

スタイル:移転と並んで使用する概念

運動量:成長、競争、統合と並んで使用する概念

  • これらの段階は、一方向に連続的なものではなく、重複したり、元に戻ったりもする。(ex 発明、開発の後に、また発明があることもある。技術移転はイノベーションの後に来ないこともある。)

=一連の段階においていくつかの活動が支配的であるから、これらのパターンが識別できるのである。

 

 

  1. Invention (発明)
  • 発明
  • 急進的な発明:新しいシステムを創始するもの。組織によって育成されることはめったにない。(ここでいうradical には、重大な社会的インパクトをもたらすといった常識的な意味はない。そうではなく、既存のシステムにおいて構成要素を持たない発明という意味である。)
  • 保守的な発明:既存のシステムの改良・拡張。
  • 19C末から20Cにかけて、急進的な発明を多く成し遂げたのは、独立した職業的発明家(independent professional inventor)である。彼らの発明は、のちに大きな組織の育成下に置かれることになった。
  • 急進的な発明は新しいシステムを開始するが、それらは、それ以前にすでに存在していたが技術革新には失敗した類似の発明の改良であることもある。
  • 「独立」、「職業的」という言葉は、発明家という概念に複雑さを与えている。

独立発明家:産業界や政府の研究所などの組織から解放され、自由に問題を選択することができる。独立発明家は自分自身の研究施設を持つが、それらは既存のシステムに縛られるもののではない。

職業的発明家:長い一定の期間において、彼らの発明的活動が一連の商業的成功によってサポートされる発明家。「独立」発明家の全員が「職業的」発明家であるわけではない。

  • 高い慣性を持つミッション志向型の組織によって選択された問題に集中しないという点は重要。彼らは心理的アウトサイダーのメンタリティを持っていて、技術変革のスリルを求めている。そして彼らは漸進的な改良ではなく、劇的なブレイクスルーを成し遂げる。←大きな組織から距離をおいた。
  • 彼らは問題選択の自由度はたかいものの、問題を特定する上での困難を抱えることもある。その際、大学の学者が、彼らの問題特定のきっかけを与えることがある。Ex テスラの多相交流

;学者たちも独立発明家と同様に産業界に縛られることがなく、技術的・科学的文献に精通していたから、想像力が自由に広がる。

  • 独立発明家は、技術文献・特許などを発表することで、商業的価値を広く認知させる。そしてこの発表がある集団に発明的活動の場所を知らせ、集団を変革させる。
  • 独立発明家は、問題選択の自由を得るだけではなく、組織的な財政支援の重荷からも解放された。
  • WW1前、軍拡競争(とくに海軍)が激しさを増すにつれて、発明家らは開発資金を政府に求めた。これらは飛行機、無線などの最新技術の成果物を供給する契約として結ばれた。政府は、実験的な設計のいくつかのモデルを契約した。この契約からの収入によって、発明家はさらなる開発へ投資した。軍と契約を結ぶために、発明家の多くは金融業者と連携して小さな会社を設立した[1]
  • 独立発明家の「エウレカ」については十分に研究されていない[2]。ただし、彼らはしばしば発明を「アナロジー」の比喩で語る。アナロジーは、既知から未知へ創造を運ぶものである。歴史家と社会学者は心理学者とともに創造行為の探求に参加すべきである。

 

  1. Development (開発)
  • 急進的発明がうまく発展すれば、技術システムにおいて頂点に達する。一人の発明家が技術システムの直接の原因となる全ての発明に全責任を負うこともあれば、同じ発明家が新技術システムが使われるまで(技術革新の段階まで)主催する場合がある。この場合は、彼は発明家=企業家と呼ばれる。
  • 発明家=企業家は、彼らの発明は、それが使われる世界において生き残るために必要な経済的・政治的・社会的特徴を発明へ体現させる。=頭の中でイメージできるくらいに単純な環境で機能するものから、たくさんの要素が浸透する複雑な環境でも機能するものへと変化する。

←そのために、試験・実験環境を構築する。

  • 経済的・政治的な性格が発明に与えられた例:エジソンの電灯システム=アーク灯と価格面で競争力を持つようにされた。
  • 大きな組織的な発明・開発システムが、サブシステムを複数の職業に割り当てるが、その中には大学の物理学者も含まれる。彼らも開発の能力に長けているということが示されており、特にWW2までは組織の縛りから比較的自由だった。19C以降、彼らの緩急課題の定義は、産業部門に求める傾向にあった
  • 科学者と技術者の関係は、システムの観点からみると曖昧である。

 

  1. Innovation (技術革新)
  • 発明家=企業家の多くは、製造、販売、サービス施設を自ら設立した。∵その初枚は既存の製造者が製造に必要な機械、プロセス、組織を提供することに難色を示すことが多かった。

→発明家=企業家は、(製品だけではなく)調整された製造プロセスも発明・開発した。他方で発明が保守的(現在進行中のシステムの改良)だった場合、メーカーは発明の製造に興味を示すことが多い。

  • エジソンが設立した企業の組織図が複雑な技術システムの概要を示している。メーカーが需給組織を吸収することで、システムの内部/外部の対立が解消される傾向にある。
  • 技術革新が起きると、発明家=企業家は、活動の中心から消える傾向がある。(∵発明家と経営者の視点の対比)

 

  1. Technology Transfer (技術移転)
  • 運動量による複雑性を持っていない技術革新の直後の「技術移転」は、おそらく移転の最も興味深い側面を明らかにする。システムは通常、特定の時代・場所での生存に適した特性を持っているので、別の環境に移転する際にはさまざまな困難が生じることが多い。
  • Ex ゴラールとギブスの変圧器:1882年電灯法に適応するもの。

ハンガリー(ガンツ社)へ移転。ガンツのシステム用に設計しなおし、変圧器のような複雑な特性を必要としないハンガリーの事情に適合させた。

アメリカ:ウェスティングハウスはスタンレーを雇い、ゴラール&ギブスの変圧器を基礎とした変圧システムを開発。大きな市場を見越した大量生産に適合させることで、アメリカ流のスタイルを与えた。

  • 法律と市場が移転にさいしての重要な要素。加えて、地理的・社会的要素も重要。
  • また技術移転には、人工物だけではなく、組織も含まれる。

 

  1. Technological Style (技術スタイル)
  • 異なった環境への反応が適応であり、環境への適応はスタイルにおいて頂点に達するので、「技術移転」の探究は、「技術スタイル」の問題を導く。
  • 美術史・建築史では、しばしば個人や国家の性格(+時代精神)に由来する「スタイル」について述べてきた。

⇔技術史・技術社会学では、「バロック」などといった長く確立された強固なスタイルの概念がないので、スタイル概念に利点を見出せる。

:スタイル;システム構築者の自由度を示唆する概念。SCOTの発想との合致。技術は場所と時代に適したものである必要がある。≠「技術=応用科学説」

国際的な技術プールがあり、工学によって起電力、抵抗、コンデンサ誘電率から理想的・抽象的な電気システムの法則や数式(=国境を越えるもの)を書いたりすることができることを認めてもなお、なぜ電灯・電力システムは、時代・地域・国によって特性が異なるのか?と問うことができる。

Ex ロンドン:小さい発電機がたくさんというスタイル

ドイツ:大きな発電機がちょっとというスタイル

法律の規制(政治的価値):ロンドンは自治体に規制を与え、政府の権力を維持。ドイツは地方に権限を委譲。

  • 天然の地理的条件のスタイルを形成する。しかし、国家レベルの規制が発動すると、地域的様式は国家レベルに統合される。
  • 歴史や経験もスタイルに影響する。

Ex ドイツ:WW1以後のベルサイユ条約に基づく炭鉱の制限→褐炭と大型発電ユニットに依存したケルン地方の発電所の地域的スタイルを形成。

 

  1. Growth, Competition, and Consolidation (成長、競争、統合)
  • 技術史家は、技術システムの成長の原因を深く探究してこなかった。「規模の経済」を原因とする説明は、不十分である。
  • むしろ、技術システムの拡大は、高い多様性と負荷率(load factors)、良い経済の混合に由来している。
  • 負荷率=平均電力/最大電力× 100

:19C後半から使われ始めた概念。曲線で定義すると、早朝は谷、午後の早い時間帯にピークを示す。負荷率は、資本主義的で利潤を計算する社会における資本集約的(capital-intensive)技術システムの成長を説明する主たるものである。

負荷率、経済、負荷管理の組み合わせが、拡大する電力システムのエンジニア管理者にとって、知的な魅力(エレガントなパズル解き)の側面を持っていたことは理解できる。〔負荷率が高くなるようにするパズル〕

  • システムが成長すると、逆突出部が出現する。=システムの構成要素のうち、他の構成要素に遅れをとっているもの。≠ボトルネック(∵幾何学的に対称的すぎる。逆突出部は、より複雑で不均一な性格を持つ。)

※システムが成熟すると、逆突出部は組織的なものである場合が多い。

  • 発明家のコミュニティが逆突出部の場所に集まる。

←ある業界の企業は、ほぼ同時に逆突出部を経験するから。

逆突出部は、発明家、技術者、経営者、資本家、法律家など、適切な問題解決者の出現を促す。

  • 20Cに出現した工業研究所(industrial research laboratories)は、保守的な発明に特に効果的であることがわかった。

:工業研究所の問題選択は、それが保守的な発明にコミットしており、急進的な発明には無関心であることを示唆している。

Ex GE研究所のラングミュアは研究課題の選択に格別の自由が与えられていたが、彼でさえもGEが製造ラインを拡大するにつれ、GEが遭遇する実用性の高い問題を軽視することはなかった

Cf ホイットニー:「ビジネス・ニーズへの対応」という方針を追求[3]

  • 既存のシステムの中で逆突出部を修正できない場合は、新しい競合するシステムをもたらすかもしれない。

Cf エドワード・コンスタント「推定上のアノマリーpresumptive anomaly」:ある条件下で、従来のシステムが失敗するか、根本的に異なるシステムがはるかに優れた仕事をすることを示すときに、「推定上のアノマリー」が発生する。

推定上のアノマリーは、逆突出部と似ているが、前者の場合は、それを特定する科学の役割を強調するものである

  • システムの戦い:1890sには、ACとDCの相互接続を可能にする装置の発明で頂点に達する。=万能システム≒AT &Tの電話網[4]〔ベル・システム〕
  • 同時期には、技術的ハードウェアが業界で標準化され、周波数、電圧、器具の特性なども標準化される。

 

  1. Momentum (運動量)
  • 技術システムは成長と統合を経て、(自律性ではなく)、運動量(momentum)を獲得する。システムは技術的・組織的構成要素の塊であり、方向性=目標を持ち、速度を示唆する成長度合いを示す。それはあたかも、技術システムが自律性を持っていたと思わせるものである。運動量に関係する概念には、既得権益、固定資産、埋没費用などが含まれる。
  • 運動量≒軌道(trajectory)の概念。特性が持続すること。

;耐久性のある人工物は、それらが設計されたときに獲得した、過去に社会構成された特性を、未来に投影するものである。

  • 技術システムが発展すると、自律性をもち、システムの外部の環境の影響を受けない「閉じた」システムになるように思われる。

⇔自律性の外見は、いい加減なもの(deceptive)である。

Ex イギリスの電力システムの発展(1926年以前と以後で全く変わる。)

Ex アメリカの原発の例:逆突出部は容易に修正されることはなく、環境団体、石油の供給、発電機の改良などは、電気事業体の管理者が想定していた「自律性」や「軌道」を覆すものだった。

  • 運動量は、歴史家に成長するシステムのパターンを理解するヒューリティックな補助を与えたり、経営者がシステムを予測するモデルを与えてくれるように思われるかもしれない。

⇔ 運動量は、自律性よりも有用な概念である。それは、SCOTのドクトリンと矛盾しないし、技術決定論を支持するものでもない。これは、構造的要因と偶然的出来事の両方を包含する概念である[5]

  • システムの成長だけではく、停滞のプロセスも、今後の歴史家によって研究されるべきである。

 

 

[1] デフォレストは、彼の「実験的な」オーディオンを日本海軍に提供していたが、その際も小さな会社を設立して契約を結んでいた。1910年代後半のことである。WW1前後の独立発明家の類型的なパターンといえるかもしれない。

[2] Goodingによる、エジソンの発明行為についての認知科学的研究が有名かと思われる。Hackingが高く評価していたそうだ。

[3] この段落の記述からは、工業研究所は「企業内研究所」を含むものと思われる。私の理解では、20Cのアメリカの企業内研究所とは、短期的なビジネスニーズ・利益に直結することを見越した「応用」研究所ではなく、むしろ長期的な展望を持つ「基礎的な」研究を行う場所として誕生したのであり、まさにその点が19Cのドイツのそれと異なる点であった。だとすれば、ここで説明されている工業研究所と保守的な発明の関係についての内容は、企業内研究所の本来の理念とは、一見矛盾するように見える。

[4] SAを強電ではなく弱電に応用した研究があるのかと聞かれることがよくあるが、一応、ヒューズは電話網もSAでアプローチできると見ているようだ。ただし、第三者による本格的な研究は現段階では知らない。ちなみに、AitkenはSAを全く採用していない。彼のフレームは、もっと別のものである。

[5] SAの運動量が技術決定論を支持するものではないことが明らかにされている。ここでの説明は、技術システムの行末は、偶発的な要因によって左右されるのであり、自律性・軌道を持つというのは当てにならないことを事実ベースで述べているようだ。ただ、もう少し論理的に考えると、そもそも技術システムを主催する経営者にとっての「目標」は、純粋に技術的な問題に還元することはできないという点を指摘することもできる。例えば、システムの主催者は、その国の法律に適合する方策を考えないといけないし、投資家に有望な会社であるように見えるようにしないといけない。これらは、技術的な問題だけに還元できない。つまり、システムの運動量、システムが向かう方向性は、技術の機能能率が向上するといった決定論的な方向性であるとは限らないのである。極限的なケースでは、技術の機能が「退化」する方向にシステムが運動量を持つことも考えられる。

 

 

 

[1] こういう言い方はされないが、「ハード」と「ソフト」の両方を含むと言い換えてよいかもしれない。