yokoken002's note

Reserch review on the history of technology and science

畑野、2005年、序章。

畑野勇『近代日本の軍産学複合体』(創文社、2005年)

 

序章

  • 本書の目的:日本海軍を軍事技術と直結した科学技術の研究開発の主体として捉え、「軍産学複合体」という観点から近代日本政治史において日本海軍が果たした役割を考察すること

 

  • 軍産学複合体レスリーの先行研究で提示される概念。

:アイゼンアワーの演説(=軍産複合体):

  • 軍隊と産業と癒着が恒常化した時期を、WW2後とする。
  • 特に技術開発における軍と大学の関係の深まりが(1)=癒着現象を生み出し、外部から統制が効かない状態を作り出した。

レスリーは、単に軍部と産業界の相互利益の分析(ex 死の商人論)に終始するのではなく、科学研究・技術開発を媒介とした軍民の結合をいう点を強調[1]。WW2後の軍産複合体は、科学技術の基礎研究の担い手としての「大学」を一貫して必要としている点を強調。

=「軍産学複合体(The Military-Industrial-Academic Complex)

 

  • 本書の議論:「軍産学複合体」という概念を近代日本政治史上の分析に適用し、その起源と戦時体制までに至る膨張過程を辿る。

∵軍産学複合体は、WW2後の米国に先立って、近代日本における海軍・重工業界・大学の三社結合において、典型的に見出される。

 

 

           
     
       
   
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 造船・火薬・造兵などの学科の創設・拡大は、海軍の要請によるところが大きく、後の研究委託を通じた軍学結合の契機となった。また、「委託学生制度」(1876)も、学と軍の結合を示している。
  • 造船業をはじめとする国内の重化学工業も、海軍と密接な関係のもとに発達した。
  • 本書における軍産学複合体の定義=

「軍民両用技術の研究・開発のための組織間の結合によって、海軍の拡張と産業力の強化、そして科学技術の研究開発の振興が揆を一にして行われることによって海軍の政治的影響力が強化される体制」

 

  • 議論を進める上での注意点:
  • 他国、とくに英国の軍民複合体が日本のそれの発展モデルとしてどう機能したかを論じる。
  • 大学工学部の役割を重視する。
  • 軍産学複合体の形成が、海軍の政治的発言力の強大さの原因になり得た点を重視する。(ex 1930sからの本格的な産業政策・学術政策を技術面から主導したのは海軍だった[2]。)
  • 軍産学複合体の体現者=平賀譲に注目する。

 

 

 

議論:

・本書は、WW2後の米国で見られた「軍産学複合体」(レスリー)という現象が、戦前の日本に当てはまるという壮大な主張を展開するものである。

・「軍産学複合体」という概念の重要な含意の一つとしては、それが一種の「パワー・エリート的政治」になる(=健全な民主主義の機能を歪ませるような強大な政治力を獲得し、自走していく)という点があると思われる。

・筆者は平賀譲に注目して、学と軍、軍と産業の癒着関係が作り出した「軍産学複合体」によって、海軍の政治力が強化されたという点にまで踏み込んで分析しようとしている。その点、政治史を専門としている著者の強みが生かされていると思われる。

 

[1] アイゼンアワーの演説=軍産複合体と、レスリーの軍産学複合体の違い・差分が明確に書かれていないが、おそらくは、後者はとくに科学研究の基礎支援という側面にフォーカスをあて、それを通じた軍学の結合が軍の政治力の強化に繋がったという議論であると想像される。(レスリーの著作は翻訳もあるので、確認したい。)

[2] 評者の見立てでは、1930sの技術政策・学術振興における海軍の影響力はさほど大きくなく、受動的だったというものである。本書の議論が、どう説得的に展開されるのか

 

楽しみである。