yokoken002's note

Reserch review on the history of technology and science

奈倉、2013年、序章。

名倉文二『日本軍事関連産業史』(日本経済評論社、2013年)

 

序章 本書の対象・時期・課題・視角

 

  1. 本書の課題と対象時期
  • 近代日本の軍事関連産業史を、海軍と英国兵器会社との関連において考察すること。
  • 時期:1900年頃から1920sまで。特に、日露戦争を画期とする日本資本主義の確立期から、WW1期の飛躍的発展期までを中心としている。
  • この間の英国:大英帝国の絶頂期は過ぎつつあり、衰退期に入る。

日本:新工業国として20C初頭にはひとまず資本主義化を達成し、WW1後に飛躍的に発展。

政治的・軍事的自立化を企図して、英国などからの武器・技術導入を積極的に行い、兵器国産化を遂行する。その過程で、政府が全面的なバックアップをした(富国強兵・殖産興業)。

→外交的には、日英同盟(1902)の蜜月時代からワシントン会議後の疎遠な関係へと変化。

 

  1. 「武器移転」概念と経済史研究
  • 武器移転:国際政治学の専門用語。学際的アプローチ。

 

  1. 英国兵器会社と対外進出
  • 英国政府の役割の再評価。

Ex (1) 海軍費膨張に苦慮していた英国政府にとって、最先端の軍事技術を日本に提供する代償として実験開発費を日本に負担させることに成功した。

(2)増大する日本市場は英国会社にとって魅力的であり、対日輸出の実績を作った上で政府の「海軍省」リストに記載されようとした。

  • →こうした近年の研究の指摘を踏まえ、英異兵器会社にとって日本海軍はどのような関係にあり、どのように意味を持ったのかを改めて問う。

 

  1. 日本資本主義と「軍器独立」
  • 「軍事大国」英国等からの「武器移転」を受け入れるとともに、兵器国産化・軍器独立を強力に推進した。
  • 軍器独立:本書では、技術的独立と資本的独立を意味するものとして使用する。
  • 従来の日本の資本主義確立過程における「軍器独立」論=軍事的顛倒性

:先進帝国主義列強との対峙のもと、日本資本主義の軍事化・工業化が遂行(重工業化に関する限りでは軍事主導型)され、そのことが日本産業構造の不均衡性[1]をもたらした。

:富国強兵路線に基づく工業化路線は概ね成功した。つまり、「軍事的ケインズ主義」(軍事支出増大・軍事部門への投資額により需要創出・雇用増大・経済成長を図るもの)を日露戦争頃から実践してきた。さらに、アメリカなどとは異なって、軍事産業が「スピン・アウェイ」することなく、うまく「スピン・オフ」したモデルケースとして評価する[2]

  • ⇔妥当だろうか? むしろ軍事部門が突出して拡大して産業構造の不均衡が生じたことや、総力戦遂行時に民需生産を犠牲にせざるを得ず、縮小再生産に陥った事態を思い起こせば、バロック的兵器廠」は戦前日本の軍事化・工業化を検討する場合においても当てはまるのではないか[3]
  • 本書では、日本の工業化・軍事的自立との関係を検討する際に、「武器移転」と「軍器独立」という視角を強調する。=武器移転の受け手側の受容/対抗の論理を、「軍器独立」の過程として捉え直すことを試みる。

 

[1] 「不均衡」とはどういう事態をさしているのか?軍需にひきづられて、産業全体の「健全」な発展の方向性が阻害されるといった意味だと思われるが、例えば、応用方面(兵器に直接関わる方面)の発展が優先されるあまり、工作機械などの基盤産業の発展がおろそかにされるなどといった意味だろうか?

[2] この点について少し補足しておきたい。サミュエルズの議論ではこうしたスピンオフは、政府主導によって(テクノナショナリズム)上手に進められたとしている。なるほど、戦前日本の軍事技術においてスピンオフの事例が多く見られることは事実であろう(陸軍の液体塩素、海軍の真空管など)。しかしながら、これが政府主導で巧みに進められたかどうかは疑問の余地がある。つまり、どちらかといえば「帰せずして」民間産業の発展が軌道にのり、それに便乗する形で軍用として流用するといったシナリオも十分考えられるのである。言い換えれば、政府の役割はやや誇張されているきらいがあり、この点は相対化されるべきである。加えて、サミュルエルズは主に航空機やエンジンを中心に検討しているので、その他の技術ではどうなっていたのかについては個別研究がまたれるところである。

[3] この点、評者(私)は見解を異にしている。少なくとも弱電分野、特に軍用受信管に限って言えば、「バロック的」な事態はほぼ生じていなかったと思われる。